PDCAサイクルがデミングによって提唱されたと理解している日本人が多くいらっしゃいます。これは大きな誤解です。デミング自身がアメリカ連邦議会での証言で、自分自身が日本で普及しているPDCAサイクルに関わっていないと発言した旨の論文と議会証言の議事録が残っています。
PDCAの歴史
日本で広く普及しているPDCAサイクルですが、その歴史的な背景や実態が正しく理解されていません。
PDCAサイクルはフレデリックテイラーが提唱した科学的管理の系譜とガリレオガリレイにまで遡られる経験主義の科学的方法論の系譜に由来します。
デミングが提唱した継続的改善手法
デミングが日本各地を回って講演会を開き提唱したのが、生産技術領域での統計的品質管理に基づく継続的改善手法です。
継続的改善は、常に継続して改善していくことを指します。自動車業界ではテスラが継続的改善を実行できている代表企業です。テスラは主要な機能制御をソフト化し、改善はOTA(over the air)でネットでソフト更新することで対応できています。また、ハードの改善も量産以降も継続して進めています。ハードの継続的改善はトヨタ自動車なども実行しています。
日本での実態
日本で継続的改善手法は必ずしも定着していません。日本で普及しているのはPDCAサイクルによる断続的改善です。定期的な計画に基づく改善活動です。
最近、日本では品質に関わる不祥事が立て続けに起きています。JR西日本の新幹線重大インシデント、神戸製鋼、東レ、三菱マテリアルなどの品質データ不正、日産自動車、スバルの無資格検査など。問題が明るみになったものだけでもこれだけあります。
日本の現場が大きな転換点をむかえています。団塊の世代が定年延長をして現場にいてくれたのが、いよいよ現場から去っています。形骸化された手続き偏重になって、現場の力が維持できていません。この問題をわかりやすく解いていきたいと思います。
PDCAサイクル
このような情況になっている原因の一つに、過剰なPDCA信仰があると考えられます。日本ではまだPDCAが提唱されています。これは異常な状態です。
- 提唱したデミングでさえも晩年にPDCAの問題点を指摘しました。現場の力を維持して向上させていくために、PDCAのC:チェックではなく、せめてスタディのPDSAにすべきと提起しました。
- 設定された標準や基準あるいは計画に形式的に準拠しようとする姿勢も顕在化された問題の原因になっています。標準や基準の仮説を設定して検証する必要があります。
- 現地現物の観察がおろそかになっています。計画からいきなり始めると観察が後手になります。
- 主体的に当事者意識をもって仕事をしている人が減っています。JR西日本の新幹線重大インシデントでは車掌が異常を感じていながら新幹線を走行させました。工場であれば、生産ラインで問題を感じたら現場の人間がその場でラインを止める判断ができなくてはなりません。
今日の激変する環境でPDCAを回せと指示して満足していると足元をすくわれる危険があります。
PDCAは日本企業を停滞させた元凶だ
VUCAの世界で、使う場面を間違ってPDCAを適用し続けると弊害が顕著に出てきます。 右肩上がりの経済環境で成功した工業製品の品質向上に効果を発揮したPDCAが、今日のVUCAの時代でも適用されているところから問題が噴出しています。 PDCAが失われた二十年が過ぎ、生産性が先進国中最下位と日本経済が停滞している元凶となっています。
日本企業の停滞の元凶
大きな賛同(いいねトップ)をいただいた記事が、雑誌「プレジデント」の「PDCAは日本企業を停滞させた元凶だ:現場の意欲も能力も奪ってしまう」です。こちらを参照ください。
PDCAサイクル:問題点と致命的欠点とは
日本人の多くが持っている特有の思考法 PDCAが、現場で限界に来ています。 問題点と致命的欠点の詳細は、こちらをご覧ください。
PDCAの欠点を補完し、結局、置換するOODAループ
品質統制などPDCAが有効な分野でもPDCAのサイクルが強調されてしまい、継続的改善が実現できていない組織が多くあります。PDCAの欠点を随時臨機応変に改善していくOODAループで補完させるのが合理的です。
特に変化する環境に適応するためビジョンから戦略の柔軟な策定と実行の領域でOODAループが有効です。 ただし、OODAループが機能しだすと、結果的にPDCAは不要になります。実際には、結局、PDCAを廃止している企業が多く出てきています。
想定外のことが起こる世界
想定外のことが起こる変わり続ける世界(VUCAの世界)ではOODAループが有効です。
私たちが日常、どのような状況でどのように考えて行動したらいいかを明らかにするのが「VUCAフレームワーク VUCA Framework」です。どのような状況下でどのように判断しどう行動したらいいかを示してくれます。状況を知っているか、そして行動の効果を予測できるかで分類されていることから、対応すべき状況を重複がなく網羅して分類しMECEになっています。
このフレームワークにより、想定外のことが起こる変わり続ける世界ではOODAループが有効であることが示されています。
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著者:アイ&カンパニー 入江仁之
出典:本論文は2005年以来のOODAループ実装結果に拠る提言です。
脚注:私たちは、OODAループを広義のOODAループ戦略一般理論つまりジョンボイド理論として定義しています。本論文はフィードバックに基づき随時、更新しております。
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