PDCAサイクル:真実と致命的欠点

PDCAサイクルとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)の段階を繰り返し回すことによって、製品と業務を継続的に改善する方法です。

日本で60年以上にわたり品質統制(Quality Control)そして品質管理(Quality Management)のために使われてきました。

製品の継続的改善では、開発した製品を市場に出してお客様からの意見を吸収して製品の改善に使われる方法です。

業務の継続的改善では、工場やコンビニ、レストランで働くなどアウトプットが定型化している仕事に就く人の仕事の改善をするために使われる方法です。

 

PDCAは出てきた背景からPDCAという用語になっています。この用語だけを簡単にみてPDCAという用語に忠実に従うと大変な過ちを犯してしまうことになります。

本稿ではPDCAの真実と致命的欠点を事例を交えて、わかりやすくまとめます。


歴史的な背景と進展

PDCAの起源の一つは、設定した仮説や理論を実験で確かめる科学の方法にあると考えられています。経験主義の科学的方法論です。

しかし元来の想定していなかった仕事の仕方、目標管理、研究開発、変化への適応、イノベーションなどの領域に適用拡大され、その弊害そして問題が露見してきています。また、品質管理においても手続きが形骸化してきています。中には不正まで起きてきています。

PDCAのもう一つの起源は、フレデリックテイラーの科学的管理に影響を受けたPDS(Plan Do See)にあるというものです。管理Managementすなわち計画統制Planning & Controlの考え方に基づいています。

しかし計画統制であるPDCAを、環境との相互作用や人間的事象に当てはめることに限界が出てきています。

日本ではPDCAはデミングが推奨したと解釈されていますが実はデミングはPDCAを提言していませんでした。歴史をたどると、デミングがPDCAの間違いを指摘していたことが明らかになりました。

PDCAの歴史:デミングが誤りを指摘してい」の詳細については、こちらを参照してください。


PDCAが日本を壊す

日本企業の偽装が後を絶ちません。品質に関係する検査の不正と検査データの改ざんが横行しています。偽装は会計不正による利益数値の操作にまで及んでいます。

「PDCAを回せ」という上司の指示で、現場の本質を見極める力がそがれ、仕事に対する姿勢が形骸化していきます。

現場の多くの人が、PDCAが回らないと感じています。

・計画倒れで実行に移されていません。

・実行した後のチェックが疎かになっています。

このため、PDCAが、Plan(計画)、Delay(遅延)、Cancel(取消)、Apologize(謝罪)と揶揄されたりしています。

管理職は、このPDCAを回せない原因がPDCAを理解していないことによるといいます。速く回さなくてはならないと。そして上司は部下にPDCAの勉強を迫ります。こうして成果なきPDCA信奉が無理強いされていきます。

ところが、PDCAが回らない理由は、「PDCAの回し方」や自分の至らなさではありませんでした。PDCAに問題がありました。PDCAを回すこと自体に問題があったのです。


PDCAの真実

PDCAが現場ではどのような弊害をもたらしているか、PDCAの実態を見ていきます。


日本で作られた独自の手法:PDCA

PDCAは、日本で特に生産技術の領域で使われて来た継続的改善の手法の一つです。日本で普及しているPDCAは、Plan(動詞) Do(動詞) Check(動詞) Action(名詞)のように動詞と名詞が混在して使われ和製英語になっています。

日本では世界的にも独自に、PDCAが適用された品質管理が経営品質として拡大して適用されてきました。

そもそも、デミングは、デミングサークルを統計的品質統制の手法の一つとして、製品やプロセスの継続的な改善のステップとして提唱しました。

PDCAは、「停止する、食い止める、せき止める、ふさぎ止める」意味の英語「Check」を使っています。デミングは「Check」を「調査する、学習する」の「Study」にすべきだと主張していました。

このような PDCAを一般的な思考や発想方法として演繹適用することに限界があると思われます。


日本企業の現場の真実

日本企業の現場では、以下のように部下が準備して上司が突き返す仕事が延々と続いて、モノゴトが前に進みません。

P(計画を現場から離れた会議室で作る)→D(部下:資料作成)→C(上司:これじゃダメだ)→PDC(上司:やっぱりダメ)→PDC(あの案件はどうなった?誰の責任だ?と責任追及)

最悪の場合、スピードが遅いと責任追及されて、PDCAを高速で回せと言われています。上司からの理不尽なプレッシャーから若者の士気が下がっていきます。

PDCAでは、形式化、形骸化、そして硬直化した悪習を増長させます。中には、経営破綻に至った企業もあります。

有能な20代の若者が、このような環境で夢をなくし能力を発揮できないでいたり、ベンチャーに転職したりしています。

PDCAを回すということは、イノベーションに足かせをはめることになりかねません。

このような状況で、意識が高い人たちは、PDCAという用語にこだわらないのがいいといわれています。そこで目指されている思考はOODAになっているようです。


トヨタのPDCAの真実

一般にPDCAはトヨタだと喧伝されています。「トヨタのPDCA」が理想とされているといった論調もあります。

トヨタでは統計的品質統制のQC活動が行われています。PDCAの改善の考え方は現場の改善活動で使われています。

しかしトヨタはISO9001をとっていません。自らが基準や目的を設定しています。PDCAがトヨタ生産方式TPSであるということはできません。一部でしかありません。「チェック」の検査確認は、トヨタ生産方式TPSでは無駄であり無くすべき業務だからです。

トヨタ内部においても経営の実態はOODAでありOODAを志向するといわれています。お客様価値そして基準を自ら設定して、その実現を図っています。モノゴトの真実とその根本原因を現場で観察し見極める現地現物などトヨタ開発方式TDS、トヨタ生産方式TPSからなるトヨタウェイの思想がOODAそのものです。

例えば、トヨタの生産ラインの現場では、問題や不具合などを見つけたら工員が自分の判断で生産ラインを止めています。PDCAを誤解されている他のメーカーの方々が見学されると、計画に従わないで現場で止めることを信じられないとおっしゃられます。まさに、トヨタの方々はこれがOODAだといわれています。

ジョンボイドは広範で深遠な原理であるトヨタウェイ、トヨタ開発方式TDS、トヨタ生産方式TPSを研究しました。そして自らが開発したOODAの有効性を検証しています。

トヨタにおいても、イノベーションを続けないと勝ち残れません。各国の環境規制政策に影響を受けるEV(電気自動車)やFCV(燃料電池自動車)開発は、PDCAで成功はありえません。激変の世の中でチャレンジしていかなくてはならないのです。


日本の政治の真実

PDCAによる政治では、以下のように事業評価から予算編成、事業計画と議会承認された後は、計画がうまくいっているかのチェックに止まっています。

P(予算を議会で承認される)→D(議会はさておき行政側で勝手に進めよう)→C(後になって議会がチェックして食い止める)→A(選挙民の意見は反映されない)

環境や情況が変わってしまい計画自体の見直しをしなくてはならないことになった段階でマスコミに取り上げられ、大騒ぎになります。時すでに遅しという事態になってから議論が始まります。行政は前例主義で従来の狭い考えに凝り固まっていることが多くあります。予算、計画至上主義に限界があります。

PDCAを回すということは、考えや法規制に反することをチェックしてモノゴトの推進を食い止めることです。

目指すべき世界・夢・ビジョンを掲げ、ビジョン実現のための政策を議論する。政策の実行においてはビジョン実現のために情況に応じて柔軟に見直す。そして目指す世の中を実現して行く。このような活動を政治が主導して進めて行く必要があります。

明るい未来を実現して行くためにはPDCAでは役不足です。


シン・ゴジラ:日本政府の真実

日本映画の「シン・ゴジラ」。登場する想定外の巨大未確認生物、ゴジラに対して日本が総力戦で挑みます。

しかし、日本の政治行政機構の問題点を露呈し甚大な被害を被ります。まさに、政治と行政システムの実態を赤裸々に描くことを通してPDCAの限界を明らかにしています。


世界で日本だけ

欧米企業で管理(Management)にPDCAは使われていません。PDCAは日本特有のものです。

欧米では、例外的にPDCAという言葉が使われているのはリーン生産方式を導入している生産技術領域です。リーン生産方式はNPSやトヨタ生産方式を欧米に導入するコンサルタントが提言している概念です。経営でPDCAを回していません。

例えば、シリコンバレー企業では、誰も期が終わって終わった期の振り返りなどしてません。競合、技術、お客様などの環境がどう動いて自分がどうしたらいいかと次の期のことに集中しています。振り返って過去のことを検証するよりもこれからのことを研究し行動しないと勝ち残れません。

不具合が出たら、次のバージョンで対応するため過去ではなくて新しい情況を前提にアクションをとります。

次から次に最新の情況に適応してチャレンジを続けています。PDCAの思想からは出てこない発想です。


PDCAの限界

次にPDCAの限界について見ていきましょう。


感知の限界

昨今のグローバルでの大型案件が新興国に敗退するケースが増えて来ています。例えば、国をあげて取り組んだ親日国トルコの「世界最長橋建設プロジェクト」受注競争では韓国に敗れました。これらの受注競争をみると、日本は品質さえよければ勝てると高を括っていたのが敗因と考えられます。

この案件では、競争情況、競争相手についての諜報活動をしたり、お客様に入り込んでお客様の期待している価値を感知したりすることが必要になっていたのです。

品質以外の様々な要因が競争要因になっています。これまでの想定を打破するためにも、PDCAの想定から脱却して、感知、情勢判断をする必要性がでてきています。

品質以外の要素で勝ち残っている中国や韓国の活動は、感知、情勢判断において日本よりも長けています。PDCA絶対の思考では、全体像を見失います。


想定外への対処の限界

PDCAのもう一つのリスクは「想定外の予期せぬこと(Unexpected)」を見逃すことです。PDCAは計画が前提にあり内外の環境感知と情勢判断の過程がおろそかになっています。

人間は潮目の変化に気づいても、それが何か納得しないと行動に移れない側面があります。行動の後のチェックで変化を気づいても手遅れです。変化が何かを見極め、直観も含めて決定(Decide)することをプロセスとして定めておかないと組織として対応するのは難しいのではないでしょうか。


計画の限界

計画の妥当性

PDCAサイクルでは、まず最初に計画(Plan)を策定することが前提となっています。計画策定後に計画策定の前提が変化することがあります。前提が変わってしまっては計画は妥当でなくなっています。

また、計画策定自体が困難であっても計画策定を強要しているために、不完全な計画を作ったり、結果的に無駄になる計画策定に時間を要したりしています。

加えて、計画策定の時に過去の経験や合意した想定しか考慮できません。

計画の必要性

PDCA信者のなかには、計画策定時にそれまでの行動のフィードバックしか考慮しないから悪いのであって、変化する内外環境を洞察して計画すればPDCAでいけるという意見もあります。そのとおりで環境を観察することが重要です。

しかし、そのあとに計画を作ることが必ずしも要るのかは場合によります。計画を策定することが目的ではありません。方針を決めるだけで実行することが効果的な場合もあります。


評価チェックの限界

評価つまりチェック(Check)の段階に至って現場からのフィードバックを聞きアクションを取りますが、それは計画を実行(Do)した後のことです。

最初の計画の段階で現場と乖離した方針が決められてしまうと、方針転換をするには余計な労力が必要となります。このPDCAサイクルで取り決めたサイクルを回している間に、致命的な事態に至るリスクがあります。計画を前提としたサイクルを高速回転しても根本的な問題を解決できません。


組織文化・風土の課題

また、PDCAでは評価(Check)をして改善(Act)をするとしていますが、特に多くの日本企業にある失敗を責任追及、犯人探しに結びつける文化では、評価、改善は実態として機能するのが難しいのです。

組織的に学ぶ環境(これを私どもはナレッジマネジメントと呼びます)を明示的に内包する必要があります。


PDCAの致命的欠点

PDCA見直しの限界

激変環境の今日、旧来から特に日本で重用されてきたPDCAだけでは生き残れません。PDCA信奉者は、PDCAの一部見直し強化で凌ごうとしています。PDCAを回す前に、EDCAそしてSDCAが必要だとされます。これをEDCA – SDCA – PDCAサイクルといいます。

EDCA – SDCA – PDCAサイクル」の詳細については、こちらを参照ください。

しかしPDCAに振り回され、古いPDCAの世界から脱却できないでいます。変化する環境ではPDCAのコンセプト自体が限界にきています。クネビンフレームワークの中の秩序の世界に限って当てはまります。


PDCAが念頭に置いていた状況の変化

私たちが日常、どのような状況ではどのように考えて行動したらいいかを明らかにするのが「状況・行動フレームワーク」Situation Actions Frameworkです。どのような状況下でどのような判断をし行動をしたらいいかを示しています。状況を想定内と想定外および行動を瞬時と持続で分類しMECEになっています。

このフレームワークにより、想定外のことが起こる変わり続ける世界ではPDCAのコンセプト自体が当てはまらないことが示されています。

状況・行動フレームワーク」の詳細は、こちらに紹介しています。


VUCAフレームワーク

不安定、不確実、複雑そして曖昧なのが今の世界です。これをあらわすVUCAという用語が注目されています。VUCAが今の世界を表しているためです。

このVUCAを構造的に整理して対応する方法を考えておく必要があります。

VUCAフレームワーク」の詳細は、こちらに紹介しています。


戦略の柔軟性

戦略の計画を立てても、実際にそれが成功するかは結果を見ないとわかりません。環境との相互作用で戦略を柔軟に見直す必要があります。


スピードの必要性

加えて、PDCAは、環境変化に対応するため、あるいは、計画の妥当性を検証するため、高速で回せば PDCAでいけるという意見もあります。しかし「戦時」の先取必勝の勝負では、その速度の高速化ではなく即断即応の「光速化」が勝敗を決します。


OODAループ

PDCAとOODAの比較

経営においてPDCAが日本で使われているのに対して、アメリカではOODAが使われています。OODAは命をかけてオペレーションをしている軍隊で採用されている判断・学習モデルです。

PDCAとOODAは目的が異なり代替関係のものではありません。しかし、あえてPDCAをOODAと対比するとその特徴と分野ごとの優劣が明らかになります。

PDCAとOODAとは、制度、価値観、風土、役割分担からリーダーシップまであらゆる側面で異なります。

PDCAとOODAの比較」の詳細については、こちらを参照ください。

PDCAとOODAの違いは、具体例として「石橋の渡りかた」に例えるとわかりやすくなります。

PDCAとOODAの違い:石橋の渡りかた」については、こちらを参照ください。


新たな夢を実現するためのOODA

本稿はPDCAの視点から議論しましたが、本来あるべき視点から考えることも重要です。OODAは人間が本来持っている認識と判断の方法そして判断力を身につけさせてくれます。人口知能 AIの発展で注目されている人間の能力を究明する認知科学にも影響を与えています。

OODAは単なる作業プロセスや思考の転換ではありません。組織、文化、風土、考え方、価値観、制度などを包括的に変える必要があります。

OODA」の詳細については、こちらを参照ください。


PDCAの欠点を補完するOODA

品質統制などPDCAを適用して有効な局面はあります。PDCAが機能している場合には、PDCAの欠点である領域を補完してくれるOODAを併用することが効果的でしょう。

特に、日本企業が弱かった変化する環境でビジョンから戦略そしてその実現までの実行を担保するためには、OODAが機能してくれます。

PDCAの欠点を補完するOODA」の詳細については、こちらを参照ください。


OODA 本の出版

私たちアイ&カンパニーは10年以上にわたりOODAやPDCAを先進企業に実装するお手伝いをしてまいりました。あわせて本稿や講演などをとおして多くの意見をいただいてきました。これらを踏まえ日本社会をよりよくするために、OODA本の構想を練ってまいりました。

現在、みなさま方と一緒に書籍を作って行くために、本の内容についてご要望ご意見などをお伺いしております。

アンケート」をこちらにてお願いします。ホワイトペーパーをお礼に贈呈します。

アイ&カンパニー・ジャパン
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注:本論文はPDCAの品質統制での適用について議論をするものではありません。
出典:本論文の参考文献こちらを参照ください。
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